占いコラム 33

月の生来的吉凶の判定方法

月の生来的な吉凶判定のための2つの原則

月の吉凶の判定方法は、以下の2つの原則に分けることができます。

  1. シュクラパクシャの月は強く(吉)、クリシュナパクシャの月は弱い(凶)。
  2. 太陽から離れた明るい月は強く(吉)、太陽に近い暗い月は弱い(凶)。

これら2つの原則は、どちらかが正しくてどちらかが間違っているということではありません。どちらも考慮する必要があります。

ヒンドゥーの『シュクラパクシャ』と『クリシュナパクシャ』

ヒンドゥー暦では、太陰月(月の満ち欠けの一周期)を『シュクラパクシャ(Shukla Paksha)』と『クリシュナパクシャ(Krishna Paksha)』の2つの期間に分けており、前者を吉、後者を凶と定義しています。インド占星術のムフールタ(吉日選定)の分野においてもこの2つの分類はとても重視されています。

『シュクラパクシャ(Shukla Paksha)』は、『明るい半分』を意味するサンスクリット語ですが、ヒンドゥー暦では、月の光がその時点で「明るい」ではなく、新月から満月に向かって月の光が増大し続けて「明るくなっていく」15日間のことを意味しています。月の光の増大は物事の拡大や発展を表するため、シュクラパクシャは、一般的に、慶事(喜びごと)を行うのには、良い時期であるとされています。

『クリシュナパクシャ(Krishna Paksha)』は、『暗い半分』を意味するサンスクリット語ですが、ヒンドゥー暦では、月の光がその時点で「暗い」ではなく、満月から新月に向かって月の光が減少し続けて「暗くなっていく」15日間のことを意味しています。月の光の減少は物事の縮小や衰退を表すため、クリシュナパクシャは、一般的に、慶事(喜びごと)を行うのには、悪い時期であるとされています。

光の強弱による月の生来的吉凶の補正

ムフールタ(吉日選定)と同様、ジャータカ(出生占星術)の分野においても、月の生来的な吉凶を判定する際には、まず、『シュクラパクシャ』と『クリシュナパクシャ』を識別することから始めます。

基本的に、シュクラパクシャの月は吉であり、クリシュナパクシャの月は凶であることを認識しておく必要があります。

次に、吉のシュクラパクシャも凶のクリシュナパクシャも、新月に近くて光が弱い場合と満月に近くて光が強い場合とでは吉凶の程度に違いがあることも考慮して、月の生来的な吉凶を判断します。

一般的に、シュクラパクシャの中でも、月は、満月に近くて光が強くなるほど吉作用が大きくなります。具体的には、シュクラパクシャの最初の10日間は、光が増大する方向にむかっているものの、まだ月の光が弱いため中吉、それ以降の5日間は月の光がとても強くなるため大吉とされています。

そして、クリシュナパクシャの月は、月が欠け始めてから最初の5日間は、光が減少する方向に向かっているものの、まだ光が十分強いため、その光の強さのため吉(他の吉星との関連などの条件によっては大吉)とみなされますが、それ以降の10日間の月は、光が弱い上に、さらにそれが減少する方向へ向かっているため大凶となります。

インド占星術古典による枠組み

インド占星術の基本原則は、過去の聖賢たちが著したインド占星術の古典が拠り所となっています。これらの古典には、インド占星術のエッセンスとなる基本原則とともに、占い鑑定の際に役立つ貴重なヒントがたくさん散りばめられています。

以下に、『パラディーピカー』、『サーラーヴァリー』、『サンケータニディ』、『ジャータカパーリジャータ』、『ホーラーサーラ』、『サティヤジャータカ』、『ブリハットジャータカ』などインド占星術の基本的な古典の中から、月の生来的な吉凶について語られた部分を見ていきましょう。

『パラディーピカー』

月が完全な強さをもっているときは、上記に記載された月のダシャーの結果が最大限に得られることになる。シュクラパクシャの最初の日から10番目のティティまでの月は中位の強さをもつ。この期間中、まずまずの結果が得られるだろう。その後の10日間(シュクラパクシャの11番目のティティからクリシュナパクシャの5番目のティティまで)の月は完全な強さをもつ。それゆえに、そのような月からは、その良い結果が最大限に得られるだろう。残りの10日間(クリシュナパクシャの6番目からアマーヴァーシャまで)には、月は、減弱しはじめ、ますます弱くなっていく。そのような月からは、良い結果はほんのわずかしか得られないだろう。(第19章第8シュローカ)

※ここでは、月の相(パクシャ)による吉凶の区別に加え、太陽からの月の距離によって、その吉凶の程度に違いが生じることが説明されています。ヒンドゥー暦では、『シュクラパクシャ(Shukla Paksha)』と『クリシュナパクシャ(Krishna Paksha)』は、それぞれ15の『ティティ(Tithi)』と呼ばれる太陰日に細分化されています。この「ティティ」や「アマーヴァーシャ」のような専門用語については『スピリチュアル占星術-瞑想に最適な時期』の記事を参照してください。

『サーラーヴァリー』

ヤヴァナの中の長老たちは次のように言っています。シュクラ(明るくなっていく半月)のプラティパダ(1日目)から10日間の月は程々に強く、次の10日間(シュクラパクシャの11日目からクリシュナパクシャの5日目まで)の月はものすごく強い。そして、3番目の10日間(クリシュナパクシャの6日目から新月まで)の月はものすごく弱い。もし出生時の月が、鮮明な光をもち、明るくなるサイクル(シュクラパクシャ)にあり、しかも満ちているならば、その人は比類なき王となる。(第5章第16&第17シュローカ)

※「ヤヴァナ」はサンスクリット語で「肉食者」。ここでは、占星術においてインドと交流のあったギリシア人たちのこと。この記述からは、月の吉凶について、古代の西洋占星術でも同じ原則が使用されていたことがうかがわれます。

『サンケータニディ』

どのアヴァスタにあろうと、明るくなっていく側にある月は常に吉となる。(第5章第32シュローカ)

※ここでは、シュクラパクシャにある月は、アヴァスタによる悪影響を受けないことが指摘されています。

『ジャータカパーリジャータ』

シュクラパクシャの最初の10日間の月は程々の強さを持つ。次の10日間は非常に素晴らしい。3番目の10日間の月にはまったく強さが無いが、もし月が吉星と関連したりアスペクトを受けるなどして良い状態にあるときは良い結果がもたらされるだろう。(第2章第10シュローカ)

※この記述からは、クリシュナパクシャの最後の10日間は凶とされているものの、その場合でも、吉星との関連(吉星に挟まれたり、吉星と同居したり)や吉星からのアスペクトなどによる保護があるときには良い結果がもたらされることがわかります。

『ホーラーサーラ』

聖者マニタたちは、普通、月のダシャーを6つに分類している。 月がシュクラパクシャの最初の日から進行しているときはアーローヒニ(増大)と呼ばれる。新月までのクリシュナパクシャの期間はアヴァローヒニ(減少)と呼ばれる。また、満ち潮のときに生まれるとアーローヒニ(増大)となり、引き潮のときに生まれた場合、そのような月のダシャーはアヴァローヒニ(減少)となる。それから、月が減衰の位置から離れていくときもアーローヒニー(増大)と呼ばれ、高揚から離れていく月のダシャーはアヴァローヒニ(減少)と呼ばれる。古代の人々は、これら3種類のアーローヒニ(増大)とアヴァローヒニ(減少)の違いを示した。

3種類のアーローハ(増大)のダシャーは全般的な成功をもたらす。その人は、全世界で有名になる。3種類のアヴァローハ(減少)のダシャーは破壊のみをもたらす。(第10章第1シュローカ~)

※ここでは、月の吉凶を判定するための要素として、パクシャによる一般的な分類の他に、出生時の潮の満ち引きのサイクルによる2分類、あるいは高揚減衰のサイクルによる2分類といった2つの要素がさらに加っています。これら3つ(計6分類)の要素に共通していることは、ある時点における固定的な状況ではなく、「増大」あるいは「減少」のうちのどちらに向かって変化しているのかという方向性を重視している点です。

『サティヤジャータカ』

月は夜およびシュクラパクシャのときに強い。(第2章第9シュローカ)

木星、金星、水星、満ちる月は吉星だが、この順に力は弱くなっていく。水星とクリシュナパクシャの月は凶星と関わると凶意を帯びる。(第3章第1シュローカ)

※ここには、クリシュナパクシャの月と一般的に中立的惑星あるいは弱い吉星とされている水星が、他の惑星からの影響を受けやすいことが示されています。特にクリシュナパクシャにあるとき、月は凶星の影響を受けやすくなることがわかります。

『ブリハットジャータカ』

月の良いダシャーの期間、バラモンからマントラと良いアドバイスを得たり、サトウキビ・ジュースとその製品、ミルク、乳製品、衣服、花、ゴマ、食べ物、遊びの機会、そして役立つ力を得たりする。 もしそのダシャーが悪いとき、眠くて怠惰になる。 良いダシャーでは、優しく思いやりを持ち、バラモンと神々に仕える。女性の子孫を授かり、記憶力が良くなる。富や名誉を得るか失うかもしれない。

そのダシャーの結果は、太陽からの距離による月の強さ、およびその月が関連あるいはアスペクトによって受けている影響の種類によって異なる。

※ここには、月のダシャーのときに起きる可能性のある良い出来事や悪い出来事を列挙した上で、その結果を判定するためには、太陽から月までの距離に加えて、その月へのアスペクトなど他の惑星からの影響も重要であることが記されています。

古典の原則を実際に適用する際の注意

これまで見てきた通り、月の吉凶の判定方法については、ほぼ共通しているものの、それぞれの古典によって強調する部分に微妙な違いが見られます。その理由は、すでに別の古典に記載されて内容を周知のこととして記載しないことがあるためです。

それから、インド占星術の古典を実践に活用するとき、1つの古典の記載内容にとらわれず、複数の古典を参照しながら、それらの原則を柔軟に適用していくことが大切です。古典から学んだ原則をいろんな人のホロスコープに当てはめてみることにより、それらの有効性を実感できるようになるでしょう。

現代のインド占星術書からの引用

これまで、古典の記述をベースにして月の吉凶の判定方法について説明してきました。また、古典に限らず、現代の多くのインド占星術書(洋書)にも、同様のことが記載されています。

第一次インド占星術ブームの火付け役となったジェームスブラハの著書『Ancient Hindu Astrology For The Modern Western Astrologer』の中に、月の吉凶について、詳しく説明された部分(20ページ目)を翻訳して引用し、月の生来的な吉凶の判定方法についての解説を終わりにします。

出生時において月が満ちていっているのか、欠けていっているのかを識別することは非常に重要です。なぜなら、欠けていく月は凶とみなされ、満ちていく月は吉とみなされるからです。

しかしながら、ここには微妙な問題が存在しています。というのは、満ちる月(明るくなりつつある月)は、新月からほんの少し経過しただけかもしれず、その場合はまだ非常に薄暗い状態にあるからです。同様に、欠ける月(暗くなりつつある月)であっても、満月からほんの少し経過しただけで、実際にはまだ極めて明るい状態にあるかもしれません。そのため、この問題については特に慎重な姿勢が必要です。

しかし、次の2点は、常に心に留めておく必要があります。すなわち、満ちる月と欠ける月との間には極めて確実な質的違いが存在しており、後者はマレフィック(凶)であり、前者はベネフィック(吉)であるということ。そして、その月が明るければ明るいほど影響力が強くなり、その月が暗ければ暗いほど影響力が弱くなるということです。また、明るい月は、その在住やアスペクトにより、その強度において、木星に匹敵する影響をもたらすということも理解する必要があります。それゆえに、満月は、西洋占星術では非常に困難な影響を及ぼすとされているものの(太陽と月のオポジッションとなるため)、ヒンドゥー占星術では、全ての占星術的な状況の中で、もっとも素晴らしく好ましい配置の一つとされているのです。

出生時の月が満ちていっている(waxing)のかあるいは欠けていっている(waning)のかについて識別することは簡単です。月は太陽よりも早く移動しているため、ホロスコープの中で、単に月が太陽の対向点(oposittion point)に向かっているかどうかを調べればよいのです。もしそうであれば、その月は満ちつつある(waxing)あるいは明るくなりつつある(getting brighter)ことになります。もしそれが、すでに太陽の対向に到達した後コンジャンクションに向かって移動しているときには、その月は欠けつつある(waning)あるいは暗くなりつつある(getting darker)ことになります。